=企画会議=
ある日のこと
常務 「玉木さん、次の触れる図鑑のネタ考えてる?」
玉木 「ハァ、考えてません」
常務 「・・・・」
玉木 「・・・・」
・・・・ネタ出しの会議が開かれることになりました。
こんな態度でよくサラリーマンやってられるなと思いますが、私的にはそのスリルも気持ちいいんです。上司が怒らないぎりぎりを通過するというか・・・
さて「触(さわ)れる図鑑」
企画のコンセプトは「図鑑で見るしかなかったレアなアイテム、あるいは体験の、現物が入った図鑑」というものです。
化石を発掘したり、ギネス世界一の紙ヒコーキを折ったりと、我々男性社員が子供の頃欲しかった物を形にする、なかなか楽しいモノ作りです。
まあ形にするのは非常に苦労が大きいんですけどね。
というわけで。
夏に必ず売れることが分かっているウチのドル箱商品「触れる図鑑」シリーズ。
多くの流通で一定数売れているこのシリーズの新作。
ウチにとっても死活問題です。
常務にふざけた分、真剣に考えました。
今年は植物系が来る!と揺るぎもなく根拠もない確信の元、私が出したアイデアは
○香辛料オリジナルブレンド
香辛料の種と土が入ってて、香辛料を育てて収穫し、自分好みのブレンドでスパイスを作るキット
→→→我ながら天才!
○育てて送るお線香
香りの元になる植物を育てて収穫し、線香の元と混ぜてオリジナル線香を作るキット
→→→我ながら秀逸!
○ハーブティーを育てるお洒落なアタシ
ハーブティーの植物を育てて、クライマックスは飲む
→→→我ながらオサレ!
○店長フルーツの盛り合わせ入りました
種まきと収穫の時期の同じ複数の果物を、一つの鉢で育てる
→→→思わず指名しそう!
○最高の焼き鳥はまずエサから
鳥のエサを栽培し、それを与えて鳥を丸々と太らせる
→→→フォアグラみたいなもんだな!
(ふっふっふっふ、こりゃ満場一致じゃのう)
常務 「みんな考えてきたぁ?じゃイノから」
玉木 (・・・チッ、俺からだろうが。あんなド田舎から昨日今日出てきた小娘に何ができる。まあいい。聞くだけ聞いてやろう)
井上 「はい、あの、ちょっと話題になったんですけど、つかめる水というのがあるんです」
玉木 (えっ!!!・・・!?。なんだそのキャッチーなフレーズは!何なのそれ、何なの?つかめるの?水が?どうして?凍らせるの?それじゃおもしろくない、どうやってつかむの・・・)
常務 「へえ、おもしろい。言葉だけで十分インパクトがある。どんなの?」
井上 「はい、あの、Aの水溶液を作り、Bの水溶液を作り、AをBの中に垂らすと化学反応で一瞬で膜ができて・・・」
玉木 (面白い!それ売れる。今自分が感じてる求心力はそのままエンドユーザーに通じる!)
井上 「おもしろいですか?えへへへうれしいな」
玉木 (ハッ・・・!いかんいかん。ほめてどうする。俺が中心にならないと。)
「ふうん。で、生産の目途は立ってるの?」
井上 「はい、あの、いえ・・・。今日は、あの、ネタ出しだと思ってたので・・・、すいません・・・」
玉木 「うん・・・まあ新人だから仕方ないけど、アタリくらいつけて会議に臨んだ方が、自分の勉強になるよ」
井上 「はい、あの、・・・すいません・・・」
こういう企画会議を経て、つかめる水は商品化に向けて動き出したのでした。
イノ。大人とか、世の中というものはこういうもんだぞ。勉強になったな。
=モノ作り=
まずネットで素材を調べて個別に材料を買って、自分で実験。
ふむふむ、こりゃ奇妙な手触りだ。柔らかいような硬いようなぬるぬるの触感。
初めての手触り、というフレーズはパッケージに入れられるな。
丸い水を作るのは最初難しいが、慣れるときれいなのができる。粉末は多目に入れないとな。
遊び方のバリエーションをたくさん写真で紹介しよう。
生産については、まずAの粉末:アルギン酸ナトリウムと、Bの粉末:乳酸カルシウムのメーカーを探さないと。
できれば充填もしてくれるとこだな。
その他の副資材としては、予算的に計量スプーンとスポイト、ブリスター容器くらいかな。
それで上代1000円を目指そう。
冊子については、まず構成を考えて台割り書いて、文章と写真のアタリ。
あとは何度も書き直して精度を高めていく。
ここは企画部のよっちゃんと協力していかないと何ともならないな。
よっちゃんは普段にこにこして優しいんだけど、誰にもわからないところにスイッチがあり、それに触るといきなりMaxにブチギレるという本当に難しい人なんだよなあ。
玉木 「よっちゃん、図鑑の新作の相談なんだけど」(おずおず)
吉見 「おっ、聞いてるよ。面白そうだね」
玉木 (ホッ)
「そうなんよ。出荷の繁忙期から逆算すると、来月末には入稿したいんだけどできるかな」
吉見 「うん、がんばろうよ」
玉木 「うん、手伝うから一緒に仕上げようね」
吉見 (ブチッ)
「玉木さんそれ違うだろ、そっちが司令塔になって采配してくれないとこちらは動けないし温度感もわからないしそもそもそんなことじゃ筋がちがうこっちはやることはきっちりやるんだからそっちもビシッとしてくれないと俺はともかく下のもんはついてこ・・・」
玉木 「わ、わ、わかた、わかったよ、ね、俺が悪かった。丸投げするつもりはなくって、よっちゃんをパートナーとして尊重して言ったつもりなんだよごめんごめんごめんごめん」
・・・・それから原価を下げるためには、イラストに金はかけられないな。
そうだ、ウチを辞めてフリーのデザイナーになったユイちゃんがいたな。あの子にタダで書かせよう。最後のページにデザイナーとして名前と連絡先を書いてやるからとか何とか言えば・・・ゲシシシシシッシ
見積もりが出そろったな。
あちこち調整し・・・
(ハァ・・・)
値切ったり仕様を変えたり・・・
(ハァハァ・・・)
写真を撮り直したり・・・
(ハァハァハァ・・・)
得意先に意見を求めたり・・・
(ハァハァハァハァ・・・)
よっちゃんをおだてたり・・・
(ハァハァ・・・く、苦しいです・・・)
自分のアイデアを形にする。
確かに言葉にするとかっこいいけど、ミクロでは本当に大変。
いつも途中では、こんなこともうやめようと思ってるんだけどなあ・・・
そしてようやく・・・
ほんとにようやく・・・
ようやくできたのが・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・逝きました・・・・・・・・・・・・・・
さあ・・・
ギフトショーに出して市場の反応を見よう。
そこで意見を拾って修正を加えるため。
(この続きは後篇で・・・)
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